二つの「涙」(中編)
(前回からの続き)
病状+環境の変化により状態が悪くなっていくのはよくある話であり、この方もそのような状況であったので、積極的に治療ができない・しないということで、経過を観察するのであれば、一刻も早く施設へ戻ってほしいところです。
8月最後の日、病院の担当医より電話が入り、「特に変化は見られないのであと2,3日入院で様子を見ましょうか?」と言われました。
それ対し、「帰れるのでれば、今日にでも帰れるように段取りして頂きたいのですが・・」と返答すると、「では変化があったらすぐに来て頂くということで、本日退院手続きをしますね」と話がまとまりました。
「良かったぁ」ということで午後に病院へ迎えに行き、声をかけると・・・ほとんど反応なし。
ベットから車椅子、車椅子から車への移乗もかろうじてなんとか・・・・
でも、そんな状態でも住み慣れた施設の環境と人の力によって少しずつは元に戻るだろうと予測していました。
ところが実際は・・・
そんな予測を裏切ってくれました。
玄関を入るところまではあまり表情もさえなかったのですが、リビングへ入り、共に暮らしていた方々と顔を合わせ、スタッフが「今日やっと退院できたんですよ」と事情を伝えると、「お帰り」「良かったねぇ」と周りの方々から声がかかりました。
最初は「帰れて良かった!」ということで表情が、パっと明るくなりあふれんばかりの素敵な「笑顔」。
その後、入院中の混乱だったり、不安だったことの共感が広がり、「大変だったねぇ」と声がかかると、こんどはポロポロと「涙」。
ご本人も周りの入居者達も「涙」「涙」「涙」。
住環境、人的環境、社会環境。
人が生きていくために必要な、人間関係や物や住まいや社会を取り込んでいく「生活支援」
「できない」「分からない」を補う「介護」から、「介護」を取り込みながらも、「人が生きる」ということを考え、様々な環境や行為や関係性を織りなしていく「生活支援」は「心」と「体」をダイナミックに動かし、「生きる力」を呼び戻す大切なアプローチだと思います。
病院での無気力、寝っぱなし、とんちんかんな言動から一転。
話がかみ合う。喜哀楽の表情が出る。体が動く。
なんと素敵なことでしょう。
特に「涙」を他の方と共有できる人間関係というのは素敵ですよね。。。
様々な感情を共に分かち合うことができる「共感」は人間関係を強くしていきます。
前に進む力が出てきます。
そして今回は、病状や病院での混乱から、自分を取り戻すためのすごく大切なキッカケとなりました★
これぞ「生活支援」のなせる業です。
その日の夕ご飯は退院祝いをしようということで、1Fの皆で近所の寿司屋に行くことになりました。
2Fさんの予約が先に入っているので、時間をずらさなければならないということはあったので、少し遅目の外食へ出発。
夜の行進です。
途中で帰りの2Fの入居者さん達とすれ違い言葉を交わし合い寿司屋で到着。
「退院祝い」の開催です。
スタッフが「今日は退院祝いです。帰ってこられて良かったですね」と進行し、皆で揃って「いただきます!」
当日の昼までは食欲がなかったり、食べ方が分かりにくくなっていたのですが、滝子へ戻っての夕食では、お寿司一人前を自力で食べられました。 「環境」「人間関係」・・・大切ですね★
帰りには、普段あまり見ない人間関係の支え合いの姿も・・・
「おばあちゃん。大丈夫かぁ」「こっちに足をおろしな」
素敵な方々です☆
*2つ目の涙は次回へ続きます。
Published by 井