「本人にとっての事実」が事実
「おっかしいなぁ」
困り果てているT氏
その姿になるきっかけがありました。
それはスタッフ側により作られた混乱でした。
財布の中の残金が少なくなり、自宅に戻ってから晩飯買えるか心配していました。
それを受け、安心してもらうために、スタッフより「昨日帰りに買い物したので、冷蔵庫の中にいっぱい入っているから大丈夫ですよ(こちら側の事実)」とお伝えしたところ・・・
「?? はぁ? そんなハズはないだろう」
「おっかしいなぁ」
同じようなやりとりが何回か続きましたが、いっこうに納得されませんでした。
スタッフ側にとっての現実・事実と、認知症という状態にある方の内なる世界・事実とはズレが起きることがよくあります。
「おはようございます」利用者
「もう午後ですよ」スタッフ
「今日はいい天気だね」利用者
「今日は曇りですよ」スタッフ
キリがないくらい、私たちの事実・現実と、利用者の事実・現実はずれていきます。
そんな時に、こちら側の事実を伝えると、相手を困らせてしまうことになります。
記憶の障害や判断力の低下により、私達の世界とは違う、自分の脳の中で作り出された記憶で「今」を生きるていることがよくあります。
ご本人にとってはそれが事実であり、確かなものでもあります。
それを否定している訳ではないのですが、私達の事実を押し付けようとしても自分の記憶とズレが生じると、「おっかしいなぁ」「そんなハズはない」となってしまいます。
可能な範囲で相手の話される事実を受け入れ、合わせ、相手の頭の中のズレを少なくすること。
それが暮らしやすさに繋がり、ストレス緩和にも繋がり、ひいては認知症の進行をゆるやかにできる可能性がでてくるのではと思います。
今回の場合も、話を合わせ、「すみません!冷蔵庫の中にたくさんあるというのは嘘で、何もありませんでした」と伝えると・・・
「そうだろう~」と少し安心されている様子でした。
「本人にとっての事実」が、私達にとっての事実になるような、会話を心がけたいものですね。
滝子通一丁目福祉施設 施設長 井 真治
今回のT氏は途中で
「訳が分からない。狐に包まれているようだ」
とおっしゃっていました。
ん?狐に包まれている?
それは暖かそうですね…