ある日の自宅支援にて

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今日はAさんの自宅生活支援でした。高辻から40分ほどかけて自宅へ同行しました。

家に帰りたい言動 は強いものの、転びやすく歩行機能の衰えが障害となり、月に一度だけ自宅に帰っている状況で、認知症では?と思われる行動が日々のクラブ・滝子生活の中で少しづつ出始めてもいます。また体を動かすのが億劫になり居室とリビングを行ったり来たりしながらベッドの上で横になりがちな毎日という状況です。

自宅につくと、職員に気を使っているのか、なんでもお好きなもの頼みなさいとピザのチラシをいくつも見せてくれ、電話できるかなーと様子みているとテレビのリモコンを一生懸命いじっています。

よく見るとピザはお昼は配達していないようです。まだクラブから自宅の環境の変化に混乱しているようなので趣向を変えて、「近所にスーパーってあります?」と声掛けすると、「あるよ」という返事。いつもクラブ・滝子でも台所仕事は積極的に動かれる方ですので、自宅でのお昼ご飯づくりを仕掛けてみました。台所を見ると炊飯器とともにご家族が用意されたお米、卵焼き専用のフライパンが。

スーパーではお刺身と卵、そしてお漬物コーナーで慣れた手つきでたくあんの硬さをチェックして、やわらかいものを「これ好きなのよー」とチョイス。

自宅に戻り台所に立つとだいぶ戻ってきたのか、卵焼きだからと醤油やみりん、菜箸を用意して調理開始。お世辞にもきれいな卵焼きではありませんでしたが、台所で調理している姿はいかにもお母さんという感じでした。

その調理中、「xxxちゃん大きくなった?xxxちゃんは帰り遅いの?xxxちゃんはやくおきなはれー」などご家族?を呼ばれるような不思議な時間がふと訪れました。

自宅の台所という環境、調理に集中している状態、そして言動の変化。
台所に立つAさんの後ろ姿を見ながら、僕はなるべく嘘にならないように、でも自分の現実感覚を押し付けないように、その世界が壊れないようにそっと相槌を打っていました。

老衰に伴う身体機能の低下、障害や認知症との不安でストレスの強い生活の中で、人間はいろいろな変化をします。もしかしたら上記の状態はそのなかで必死に作り出した心の処方箋かもしれません。

僕は思います。もし歳を取り、未来への思いより過去の記憶が大きくなり、うつらうつらした状態で見る他人には見えない世界。それは小さな小さな奇跡の種を孕んでいるのではないかと。

それはこの自宅生活支援を基本とする、小規模多機能型居宅介護にかかわっている僕のただのすがりたい願望かもしれません。しかし今日見た風景はなんだか僕の心に留まり、何かをいただいたような気分になりました。

ある日に起こった出来事でした。


Published by  小規模多機能・クラブ滝子 町上

2013年06月30日 Category:スタッフ日誌