エピソード記憶
「新しく入社したスタッフ佐藤さんです。よろしくお願い致します」
初日の勤務入りに入居者の皆さんに紹介させて頂くのですが、すぐに忘れてしまわれます。
記憶の障害があるのでごもっともなことです。
「あの方初めてみるわ。誰なのかしら」
「先生(井)が紹介してくれないといけないじゃない」と入居者さん達から。
そんなことを3回も5回も言われるうちに、なんとかならないものか・・・と思案。
そこでエピソード(物語)を付けた紹介へ切り替え。
「伊藤、加藤でなく佐藤さんです。砂糖じゃないよ」
とその場の笑いをとりつつ会話を広げてみました。
特にボス格の方にアピールするように。
何時間か過ぎ、再び同じ質問が来ました。
「紹介しましたけどね~(井)」
「うそ~ 聞いてないわよ」と入居者さん達。
そこで、「伊藤、加藤でなく、佐藤さん」と伝えてみると・・・
「あっ! そうだそうだ 思い出した。先生言ってたわ」
(やった!)
シンプルな「知識」の記憶を味記憶といいます。
どっちかといいますとすぐに忘れてしまう記憶です。
電話番号を調べて覚えて、かけたら忘れてしまうようなものです。
それに対し「物語」を伴った記憶は「エピソード記憶」といいます。
ある物事を何かのエピソードに絡めて覚えると、忘れにくくなる傾向にあります。
その場の物語に加え、感情(笑い、怒り、苦労など)や感触が加わるとよりいいと言われています。
さらに入居者の中でも発言力のある方が思いだし「そうだった」となると、他の入居者に対し、より説得力が増すということです。
いつかはエピソード記憶の保持力も落ちてしまう時は来るのでしょう。
しかし、今はまだエピソード記憶が残る能力があるのであれば、活用したいものですね。
滝子通一丁目福祉施設 施設長 井 真治
今日の買い物の帰りに入居者さんの手に「セミ」がとまりました。
「あらあらあら びっくりした!」
「80年生きてきてこんなの初めてだわ」
さて、このエピソード記憶は残っていくのでしょうか。