備え

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2007年に、認知症の状態にある方がJRの電車と事故を起こした裁判の最高裁の行方が本日示されました。

「大変温かい判断をしていただき心より感謝する。良い結果に父も喜んでいると思う」

要介護状態の妻も、別居する長男も、「監督義務者に準ずる者に当たるが、免責される」という家族側の逆転勝訴が確定しました。

 

これほどまでに「認知症」に関する事で、社会全体の話題となったことがあったでしょうか。

多くの認知症の方を抱える家族達や介護関係者は、本日の訴訟の結果に関心を寄せていたことでしょう。

 

当事、愛知県大府市で認知症の男性(当時91歳)が1人で外出して列車にはねられました。

JRが「電車に遅れが出た」として、男性の妻(93)と長男(65)に約720万円の支払いを求め、1審の名古屋地裁は長男を事実上の監督義務者と判断し、妻の責任も認めて2人に全額の支払いを命じました。

「えっ!? そんな事になるの?」

責任能力や、監督義務について、その時点での判断が示され、衝撃が走ったのを覚えています。

 

2審が行われることになり、長男の監督義務は否定しましたが、「同居する妻には夫婦として、監督義務を負う」として、妻に約半分の360万円の賠償を命じました。

「やっぱり、免責にはならないのか・・」

「家族は辛いでしょうに」

「1人歩きをされる方は、家に閉じ込めておくしかないのか・・」

「認知症という状態にある方の尊厳や権利はどうなるのか」

身内に認知症という状態の方がいる家庭や関係者は、この国の行方に失望や怒りを感じていたのではないでしょうか。

 

そして最高裁に持ち込まれ、本日の午後、最終判断が下された訳です。

しかし、他の同様のケースも全て家族側が守られるという訳ではないでしょう。

今回の家族は、基本的な対策をちゃんとやっていたという事があります。

それに加え、世論が影響したのかもしれません。

 

とにかく結果としては、良かったのだと思います。

この国の認知症の方とその家族の進む道は閉ざされなかったのです。

 

しかし逆の見方をすると、JR側も被害者なのですよね。

では、どうすればいいのか・・・

 

不本意ながら、とんちんかんな事が起こりがちな認知症という状態にある方が増えるこの国において、個人や家族側もそのリスクに「備え」が必要なのだと思います。

今は、「個人賠償責任保険」といった基本の保険にくっつける特約をつけて、安価な保険料の割りに補償は大きいものがありますが、これは直接被害に対しては有効ですが、今回みたいな「遅延」となると間接被害、二次被害となり補償の範囲外になってしまうのだと思います。

 

これからは個人の備えとして、「認知症保険」なるものの保険商品のラインナップの拡充が必要だと思うのです。

保険会社さんどうでしょうか?

また、今回のJR側のような立場の方への補償が、全額でないにせよ公的に税金の中からできる仕組みも、必要だと思うのです。

 

時間の関係で、中途半端な終わり方になってしまいましたが、「道は開かれた」と個人的な感想と、個人も企業も「備え」をしておく時代なのではと感じた判決だったと思います。

 

とにかく良かった良かった。

 

滝子通一丁目福祉施設 施設長 井 真治

2016年03月01日 Category:スタッフ日誌