「二周年を迎えて」

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関係者各位

 

拝啓

滝子通一丁目福祉施設は4月5日で3年目を迎えることができました。

これもひとえに皆様のご理解とご協力によるものと心よりお礼申し上げます。

 

平成24年4月5日、ちょうど二年前の今日、滝子通一丁目福祉施設(介護保険事業である認知症対応型共同生活介護(以下 グループホーム)と小規模多機能型居宅介護(以下 小規模)の複合施設)に小規模利用者さん、グループホーム入居者さんを初めてお迎えさせていただきました。

 

平成22年、「身体に障がいをもったり認知症になったとしても、最期まで『人として生きる姿』を失わないように応援することを追求する介護職集団を作ろう。」と株式会社波の女を立ち上げさせていただきました。

そしてその実践を通して、従来の「してさしあげる介護」「受け身の介護で活かされる高齢者」ではなく、もっと「主体的に生きる要介護状態にある人たちの姿」を社会に投げかけて、今の「介護」の常識を豊かに変えていこう。これからの超高齢化社会に対して、「こういった介護もあるんだよ」「認知症があっても介護職が関わることでこんな風に生きていけるんだよ」と、新しい道を示してみたいと大きな目標を掲げました。

この目標を実現する舞台として、関係各位の皆さんの大きなお力添えをいただき、当複合施設をスタートさせることができました。

 

開設時の職員は、自分も含めて全くの未経験の新卒者8名を含む17名でした。 

施設長である井、専務取締役である和田が支援の基本姿勢・方向を示し、協力法人から大ベテランの方々に数日間応援に来てもらい、OJTや研修会を通じて「利用者・入居者自身が生活の主体者として暮らす」その流れを創ってきました。

グループホームには開設直後より延べ3ヶ月間にわたり「和田」へのテレビ取材が入りましたが、多くの入居者さん、ご家族が取材に同意してくださり、私たちが目指す「介護」の在り方を社会に発信する、よい機会になりました。

この番組が放送されてから、市民の皆さん、介護業界で仕事をしている方、介護をされているご家族の皆さんなどから、たくさんの反響をいただきました。

利用者さん、入居者さんに声をかけてくださる市民の皆さんが一気に増え、「番組見ましたよ、がんばってくださいね」と多くの方々から励ましの言葉までいただくとともに、私たちの目指す「介護」を一緒に追求したいと願い出て、実際に東北や関西から来てくれた職員さんも現れました。本当にありがたいことです。

 

施設から約700メートル離れた市場まで、毎日、お昼前と夕方に買出しに行くのですが、最初の1年は、近隣の皆さんは、職員さんと一緒にぞろぞろ買物に出かける利用者・入居者さんのことを珍しげに見てくださっていました。

でも毎日この光景が続くことで、「最初はどんな人たちなんだろうと思っていたけど、認知症があっても皆さん割といろんな事ができるのね。」とか「お年寄りばかりの町になって出歩く人もめっきり少なくなり寂しくなっていたのよ。こうやって皆さんが出歩いてくれることで、町がにぎやかになってよかったわ。」と声をかけていただけるようになりました。

 

グループホームの入居者Nさんは、平成24年4月8日に入居された直後から施設を出て外を歩く行動が始まりました。1日何十回も出るNさんに職員もずっと付き添いました。真夏の炎天下、雨の日、風の強い寒い冬、何時間も付き添ったこともありました。にっちもさっちも行かなくなり、「迎えにきてください・・・!」と職員からSOSの電話を受けることもたびたびありました。

職員さんが付き添うことが逆効果となって大通りを横切ってしまうことがあり、ご家族とも話し合い、Nさんの外出に職員があえて付かない支援策に切り替えました。その時点で「一人で出歩いて施設まで戻ってこられる確率はざっくり85%」でしたので、戻って来れなくなるのではないかという不安もありましたが、その後の1年間で戻れなかったことは一度きりでした。

むしろそのことよりも、他人のお宅へ勝手に入ったり、花をちぎったり、公道で排せつをしたり、傘や靴などを持ち帰ってくるといった「反社会的な行為」が増えてきて、近隣住民の方々から意見をいただく機会が増えました。

近隣住民の皆さん方は、「いつか私もそうなるから」と温かく受け止めてくださってはいますが、それに甘えていているわけにもいかず、かといって効果的な方策も見出せず、未だに暗中模索の状況です。

そんな中、つい先日、新しく入った職員がNさんに付き添って歩いたとき、Nさんはふと「わけわかんなくなっちゃったのよ。あとは死ぬだけ」と話したそうです。

これまでの二年間、彼女がこのようなことを言われたことはなく、あまりに重い言葉で、なかなか受け止めることができませんでした。

 

小規模多機能利用者のTさんは、開設時から利用してくださっています。

一人暮らしされていたため、小規模の「通いサービス」を毎日利用され、日中は施設、夜は自宅という生活を続けていました。

夫婦円満の秘訣や子育てについて、とってもユーモアに語ってくれていましたが、この2年の間に語彙はめっきり減り、排せつの失敗は増え、幻覚や幻聴が現れ、それに対して不機嫌になり、そんな自分の世界を生きる時間が圧倒的に増えました。

それでも今でも職員が子供を連れて行くと、不機嫌な顔からふと「ふつうのおばあさんの顔」に戻ったり、ふと職員に「私、なさけないわー、できない」とそのときの感情をそのまま表現されるときがあります。

どんなに手を尽くしても、医療と連携を図っても、認知症の原因となっている病気の進行を食い止めることはできません。でもTさんは今でも自分の思いのままに施設内を歩き回っていられていますし、ゴマすりや洗い物などは職員がそっとお手伝いさせていただくことでまだまだ人並みにこなせるし、歩いて喫茶にも買物にお出かけできます。そんな姿は「認知症のTさん」でなく、「Tさん」なのです。

 

食い止られることもあれば食い止められないこともあるこの仕事のすばらしさと儚さを痛切に感じているところです。

 

あっという間の2年でした。

一見すると二年前とお変わりのないような利用者さん・入居者さんでも、変化の幅は人それぞれではあったとしても、確実に歳を重ね、病は進行してきています。

認知症という状態になって「なんにもわからなくなっている」わけではなく、逆に「わからなくなっている自分がわかる」ことの不安や恐ろしさに向き合っている利用者さんや入居者さんの生々しい言動・表現に触れるたびに、お一人お一人が輝ける瞬間を大切にしなくてはならない、そういう時間を作れるように努めていかなければならない、と感じています。

利用者さんや入居者さんの人生に彩りを添えられるように、新たに生活することになった滝子の町で地域の皆さん方と末永く共に暮らさせていただけるように、関係者の皆様からのお言葉をしっかりと受け止め、真面目に仕事に邁進させていただく所存です。

新年度も引き続き皆様からのご指導ご鞭撻のほどいただきますよう、重ねてお願い申し上げます。

   敬具

 

㈱波の女 代表取締役 加藤 千恵

 

 

2014年04月05日 Category:スタッフ日誌