NHKプロフェッショナル「和田が流した涙」のわけ

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僕は野村さんに会った時から

僕らの支援の行く末に野村さんの生きる姿を描き

描いた姿を得るためにはどうすればよいかを考えた

それは野村さんに限らずである

 

窓でも柵でも塀でも乗り越え・くぐり抜け

ホームを出て行く野村さん

強張った顔で突進する野村さん

人と交わろうとしない野村さん

触れさせることさえない野村さん

 

そんな野村さんが

市場で買物籠を下げ

商店のおっちゃんおばちゃんと会話しながら

夕飯の買出しをする光景

他の入居者と談笑しながら調理にいそしむ光景

バスに乗り電車に乗ってショッピングや花見に出かけて行く光景

出ていきたい時に玄関から堂々と出ていく光景

そんな、どこにでも・誰もにある「人として生きる姿」を描き

そのために、ああして、こうして、どうしてと支援行程を組み立てるが

それは

「尊厳を保持」し

「有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるように」とある

介護保険法の目的そのものへの挑みであり

「人として生きる姿を取り戻す」ことへの挑みである

 

それが僕の仕事=飯のタネだ

 

四月にグループホームに入居してきた彼女に出会い

限られた時間の中で

しかも和田だけが成し得られても意味はなく

職員たちが継承できる支援策探しの旅を始めた

 

苦難に満ちた旅であったが

ひとつひとつ山越え谷越え

ゴールに向かうことができていたその瞬間

五月に彼女は転倒・骨折という悲惨なことにまみれその旅はいったん途切れた

 

僕の涙は

彼女を転倒させて大けがさせてしまったこと

痛い思いをさせてしまったことに涙したわけではなく

僕の一瞬の判断ミスが

目標に向かった全ての行程を狂わしてしまった

その判断ミスを犯したことに対して出た涙である

 

そのミスとは…

 

外出した先で彼女が女性トイレに入ったとき

僕が付き添わず女性職員に付き添わせ

女性職員では応じきれず事故が起こってしまった

「なんで女性トイレであろうが彼女から離れたのか、和田のアホ」

10年前まで現役でバリバリ婆さんに関わっていた和田なら

何ら躊躇することなくついて入ったであろう女性トイレ

その一瞬のミスを犯してしまった

 

その涙から六カ月が経った

 

このブログで

その後の経過が紹介されている野村さん

 

アクシデントで

思ったよりも時間はかかってしまったが

どこにでもある「人の生きる姿」を取り戻しつつある

 

6月以降自分はほとんど関わることをあえてせず

職員の「遂行力」に期待を寄せて見まもってきたが

うちの職員たちは「プロフェッショナル」を受け継いで

果敢に挑んでくれている

 

僕らがあきらめたらそこでお終い

僕らが「人の暮らし」を描けなければ「施設の暮らし」止まり

 

波の女は

介護保険法の目的を遂行する専門職集団を目指しているが

野村さんは通過点とは言え

ひとつの評価を与えてくれているように思う

 

みんなで

これからも

力を尽くしていきたい

 

最期まであきらめずに

 

和田行男

2012年11月08日 Category:和田行男の「波の女」とともに